全国戦没者追悼式のこと②

会場の日本武道館に到着する。物々しい警備陣の数に驚く。後で聞いたところによると、天皇皇后両陛下がご入場になる時間帯が、最も厳しい警備態勢が敷かれるとのことであった。

警官の誘導で指定のところに駐車したとたん、バスの乗降口から一人の警察官が無言で入ってきた。社内にいる我々に向かって、鋭い視線を走らせ、一人ひとりの胸のリボンを確認し、怪しい人間がいないかどうかの確認をする。前日、バスガイドさんから、必ずつけておかないといけないと繰り返し言われていたが、厳重なチェックぶりにはさすがに緊張した。確認を終えた警官は、やはり無言で出ていった。

参加者は、「国費」と呼ばれる、参加費用を全額、国が負担する人たちと、我々のように自己負担で参加する人に分かれる。「国費」の人たちは、宿泊するホテルも別なら、席も一階のある意味「特等席」が与えられる。我々は、武道館の2階、席の間隔も狭い。

席に着いてしばらくすると軽食とお茶が配られ、開式に備える。テレビでしか見たことがない、何人かの政治家の顔を見る。知事が挨拶にやってくる。

いよいよ、戦没者追悼式の開式。祖父の遺影を風呂敷から出し、胸に抱えた。これから始まる行事のすべてを二人で見守るつもりであった。

三権の長が壇上に上がる。錚々たる顔ぶれである。安倍元首相はじめ、衆議院議院議長、参議院議院議長、最高裁判所長官。

今は上皇におなりの平成天皇陛下がお言葉を述べられる。平成30年度のこの追悼式に列席できたことに、改めて感慨を覚える。

天皇、皇后両陛下は、途中で退席になられる。壇に設けられたスロープをゆっくりお進みになり、天皇陛下に続いて、美智子さまも奥にお下がりになろうとする直前、美智子さまが立ち止まられ、会場にいる我々にゆっくりお顔をお向けになり、会釈をなさったのである。美智子さまのご様子に気づかれた陛下も歩みをお戻しになり、お二人で軽く会釈をなさって、ご退席になった。

感動的であった。

戦没者追悼式にご臨席になるのは、これが最後である。

平成天皇と美智子皇后両陛下がともにお手を携えながら、日本国民統合の象徴として、戦争であまたの命が失われたことを憂い、東日本大震災始め、各地で頻発した災害によって被災された方々のところへ足をお運びになって、直接お言葉をかけて来られた光景をテレビを通して何度も見てきた。そのお二人の優しい、温かいお人柄に、じかに接することができたのである。

祖父はどんな思いだったろう。一度は無事に帰還したものの再召集を受け、今度こそは命はないと自らに言い聞かせながらの出征であったと想像するのである。幼い子どもたちと妻を残し、死に行く無念さ、悲しさは、筆舌に尽くしがたいものであったろう。

戦争を直接体験した方々が高齢化し、戦争の悲惨さ、むごたらしさが風化してしまう危険性が指摘される。語り継がねばならないこと、決して忘れ去られてはいけないこと、幾多の惨禍が二度と再び起きてはいけないことを、教育に携わる者として、遺族の一人として、伝える責務を負うていることを肝に銘ずるのである。

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